傘が笑う。雨が降る予定だが、長傘を持ち歩くのは億劫で、とうとう折りたたみ傘を買った。ケーキ屋の手伝いの帰りに一瞬だけ降った雨のときに差した以前の折りたたみ傘は、そのとき一度だけ吹いた強い風で簡単に壊れてしまったのだ。その後暫く傘を持たずに歩く日々が続いた。
空が重い、けれど雨や雪が降っていないときにいちいち降るのか降らないのかハラハラするのは嫌だし、人の家に訪問中に雨に降られて相手に気を遣わせてしまうのも嫌だなと思っていた。友人の演奏会に行く途中、雨が降りそうだったので、会場近くににあったショッピングモールで傘売り場を探して、ほぼ値段を見ないで買ってしまった。軽くて丈夫。色は明るいもの…と思っていたが、店員が開いて売り物の傘に異常が無いか確認してくれているのを見ていたら、なんだかそれほど明るくない。まぁ、いいか。と思ったが、値段が思ったより高くて、ちょっと驚く。以前買った長傘よりも高い。うーん。傘、すぐに壊れるなよ。
ところで、その「傘が笑う」とは何だ?と思っただろう。演奏会が終わった後、帰宅途中で傘を開いているときのことだった。ものすごく小刻みにワサワサと上下に傘の布が骨に沿って動くのだ。開いたり閉じたり?という感じだろうか。別に壊れている訳ではない。ただ、そう見えるだけなのだが、ユサユサ、ワサワサする。今まで傘はそんなふうに揺れなかった。普通は布が張られたところがピンといつも張られてそのままでいたように思うのだが。長傘ばかり使っていたから折りたたみ傘特有の動きなのだろうか。
自分が動けば、その振動が伝わってずっと揺れている。自分が止まれば、だるまさん転んだの遊びをやっているかのように、傘が何だか変な顔した表情を作って止まっているような感じがする。また再び動けば自分が見ていないところで相手はいい気になっていて「オラオラ」と笑い、煽られているかのような気分になる。傘のクセに、と思いながら、値段も高いクセに、コイツは~、本当にすぐ壊れるなよ!と思いながら帰宅した。
笑う傘を手に入れたが、いや、正確には自分が笑われる傘を手に入れた。本当に軽い。骨組みも線の細い、華奢なもの。リュックに入れている間に持っていることを忘れてしまって、扱いが悪くて変なところで折れてしまいそうな感じがする。使わないで折れるとはもってのほかだ。
正直なところ、マイ箸を持っているように見える。箸ケースかもしくは歯磨きセット。全然機能は違うものなのに、そう見えてしまう。何だコレ。本当に自分は傘を買ったのだろうか。疑いたくなるほど小さい。結構目につく色があるから、遠目で見ると扇子みたいだなぁ。
開いて歩いているときにはずっとワサワサと音を立てていて、あの変な動きをしながら小刻みに雨粒をはじいていた。傘に一瞬つくかつかないかのタイミングで、雨を撥ね退けていたのだろう。家の玄関に広げても雨が入っていない。濡れた犬が知らないうちにブルブル体を震わして毛についた水を振るみたいな。まるで生き物みたいだな。玄関先で傘を揺らして水を落としたときも、雨に降られた傘には見えない位、何事もなかったかのようにしている。新しい傘だからか?まぁ、単に撥水がとても効いているのかもなぁ。
細い骨組みと柔らかな線。とにかく小さなものだ。見ていて、自分の子どもが2歳か3歳頃に熱中してやっていたワイパーのしぐさを思い出した。とにかくいろんな車のワイパーをよく観察しては、「あのワイパーはねぇ、こう動くの。」と両腕を使って演じて、自分に説明してくれていた。とても楽しそうにやっていた。それかぁ。この傘はそれに似ている。好きに動いて動いて、動きまくる。なんだ、ルンルンしているのか。
よく見たら変な色で、華奢で、自分に不釣り合いな感じがする位値段も高くて、レジを済ませた時にはすでに、きっとこれは傘を買うのに失敗したなぁと思っていたが、高機能でルンルンとしている機嫌の良い傘なのかもしれないと今は思えるとしたら、自分はきっと良い買い物をしたのだろう。
では今日はこのへんで。